大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和54年(う)1876号 判決 1980年1月29日

被告人 塙俊雄

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人宮島康弘、同伊藤忠敬の連名で作成された控訴趣意書に記載されているとおりであるから、これを引用する。

論旨第一は、原判決が判示している第一及び第二のいわゆるのみ行為の罪数につき、これらの行為は、一個の継続した犯意のもとに同一の場所、方法及び内容の犯行を二日間にわたつて行つたものであるから、包括して一罪と認めるべきであるにもかかわらず、原判決が合理的な理由もなく日にちをもつて罪数処理の基準とし、二日にわたる本件行為を二罪として処断しているのは、法令の解釈適用を誤つており、この誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるというものである。

そこで、被告人の各自供調書その他訴訟記録中の各関係証拠によつて考察してみると、本件のみ行為は、胴元である被告人があらかじめ電話で客から勝馬予想の申込みを受け、その申込みにあたつては、競馬の実施日、レース名、連勝番号及び申込口数が指定されるという方法で行われたもので、原判決判示第一の分は、同判示のとおり、昭和五四年東京競馬第五日の第一レースから第一〇レースまでの各レースにつき一一名の客から右当日にあたる昭和五四年六月二日にそれぞれ申込みを受け、また、同判示第二の分は、同判示のとおり、同競馬第六日の第二レースから第七レースまでの各レースにつき三名の客から右当日にあたる同月三日にそれぞれ申込みを受けていることが認められる。右によれば、競馬の行われた日にちが連続しているところから、被告人としては同一の企てに基づいてのみ行為を行つたとみるべき一面もあり、また、関係証拠に徴すると、一部の客に対しては右二日間の申込み分をまとめて清算が行われていることもうかがわれ、さらに、当審における事実取調の結果によれば、一般にのみ行為のやり方として、二日間にわたる各レースにつき一度にまとめて申込みの行われる場合もあつて、のみ行為の罪数を定めるにあたり、つねにその行為の行われた日にちだけを基準とすることには、なお問題の余地が残されているように思われるのであつて、この点に関する所論に傾聴すべきもののあることは否めないところと考えられる。しかしながら、関係証拠にみられるとおり、本件のような日本中央競馬会の主催する競馬は、「第三回東京競馬第五日」というかたちでまず実施場所とともに実施日の日程が立てられたのち、各実施日ごとにレースが組まれているのであつて、かようにして競馬自体の実施形態が実施の日にちを実施の場所と並ぶ重要な基準としているものであることと本件において被告人が申込みを受けたレースはいずれもその日に同じ競馬場で実施されたものであること等に照らすならば、本件については、客からの申込みにかかる各競馬レースの実施日であると同時に、その申込みを受けた日でもある原判決判示の各日にちを基準として罪数を評価するのが最も妥当な措置と考えられるのであつて、したがつて、右と同一の罪数処理をしている原判決の処断に所論のような誤りは認められないから、この点の論旨は理由がない。

論旨第二は、原判決の量刑不当を主張するものであるが、被告人の原審における供述等によれば、被告人は以前から本件と同種の行為に親しんでいた形跡もあつて、その常習的傾向もうかがわれるうえに、かかる行為による不正な利得の額も少額にとどまるものではなく、また、原判決判示にかかる覚せい剤事犯等による累犯前科もあつて、その身辺が荒廃していることも否定できない等の諸点を考えるならば、所論の諸事情を考慮しても、原判決の量刑が重過ぎて不当なものということはできないから、この点の論旨も理由がない。

よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、主文のとおり判決をする。

(裁判官 西川潔 杉浦龍二郎 阿蘇成人)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例